住宅/ビル/マンションのデザイン建築設計事務所をしている片岡直樹が向学のために名建築を訪ねるシリーズです。
埼玉県本庄市にあります時間の倉庫 旧本庄商業銀行煉瓦倉庫です。
職員の方の許可を頂いた範囲で撮影させて頂きました。
設計は、福島加津也先生・新谷眞人先生・山田俊亮先生・中谷礼仁先生・本橋仁先生です。
明治29年(1896年)に地元の銀行が担保のシルクを作る養蚕の繭(まゆ)を保管するために建設した2階建てレンガ組積造の倉庫の保存改修計画です。
新建築 2017年6月号・日本建築学会作品選集2019に発表されています。
道路側外観
銀行から様々に所有者が変わり、2017年から2011年までは洋菓子店として利用されていたそうです。
窓の上部にドーム型庇テントの跡があります。
西側外壁
2階多目的ホール
鉄骨造の補強が入っています。屋根と2階床の水平面に対して、乾式工法で接続する取り外し可能な耐震補強がほどこされているそうです。
通常時は木造と組積造の既存躯体が負担して、大きな地震時は既存の構造体と補強した鉄骨造が一体となって抵抗する高度な構造設計がおこなわれているそうです。
2階多目的ホール東側内観
床:置敷きビニルタイルt=5mm フリーアクセスフロア デッキプレートt=110mm
空調吸気塔
2階の竣工当時の用途は繭(まゆ)倉庫、転用時は洋菓子店の倉庫だったそうです。
1階西側窓外観詳細
窓枠は竣工当時、鉄製建具は固定だそうです。
換気:W347H235mm 鋳鉄製換気金物 アルミ金網 モルタルレンガ 45x60mm
1階鉄骨補強柱脚 鉄骨柱 Ф165.2х7.1 SOP St-BPL t=25mm アンカーボルト2-M16
西側入口
漆喰中圧洗浄 組積造レンガ漆喰跡現し
1階エレベーターホール
木板 1=24mm w=215mm 木根太 52×140@456mm 木梁 170×400@1,864mm 鉄骨柱 Ф165.2Х7.1 SOP
鉄骨壁柱: B.BOX-350x1000x16x32 SOP 間仕切り壁: PB t=12.5mm AEP
木梁下まぐさ石(接工時)351x210x480mm
旧中山道からの外観
屋根:桟瓦 アスファルトルーフィング23kg 構造用合板t=12mm木下地 断熱材 t=40mm St-PL t=2.3mm 雪止め
St L-50x50x6 St L-40x40x5 煉瓦取合金物:St 溝形-150x75x9X12.5 煉瓦取合金物 St-PLt=9mm ボルト M12
最高軒高GL+8,167
階段
大梁に仕口の跡があります。
二階CH=4365
2階多目的ホール北側への眺め
キングポストトラス@2092mm 棟木::120x148mm 野地板:t=30mm 木束:147X150mm木母屋:115x120mm
鉄骨梁:平鋼80x330mm St L-50x50X6 St L-40x40X5 木登り梁:2x150x240mm 木梁150X240@2092mm ボルトM12
鉄骨柱 Ф=267×35mm SOP
屋根は、瓦と野地板の間に2.3mm鋼板パネルによる耐震鉄骨構造体・断熱材・防水材が仕込まれているそうです。
既存床から10mm浮いた部分に鉄骨梁、その上にデッキスラブ、空調はスラブ内床吹き出し 照明は梁上です。
既存構造体も使った上での鉄骨補強なので、追加の鉄骨構造体が少なくなり目立ちません。
建築基準法上の構造規定をみたしていないと思われる既存レンガ組積造部分を、耐力壁として評価しているのでしょうか。安易な鉄骨補強設計ではないのでわかりません。
印象としては、既存のまま復元したような自然な仕上りで、非常に高度な設計技術であることがわかります。
逆説的な設計として、昔のレンガ組積造を現代で再現するには、どうあるべきか。どういう部分でどういう設計手法で現代の追加の構造や設備が必要になるのかがわかる事例としても見ることができると思います。
大変興味深く、勉強させて頂きました。
2階多目的ホール東側窓詳細
2階床端部:煉瓦取合金物 St-PL曲げt=12mm あと施工アンカーM16
高カポルト4-M16 鉄骨梁:H-250x250x9x14
1階エレベーターホールと西側入口
木梁 230x380mm 木頬杖145x158mm 木柱: 215×215@5,059mm
1階東側内壁
木網戸は竣工当時のものです。
1階東側窓詳細
西側入口
当時の木製建具の有無は、長い年月での転用の歴史から間仕切り壁が、レンガ組積造に取り付いていた状況により違うようです。新設して性能の低い当時の建具を復元するのではなく、現代の仕様になっています。
2階天井補強部分
荷揚げ口として床開口のため、既存木造床が撤去されているそうです。
耐震補強の鉄骨梁とコンクリートスラブのデッキプレートがみえる部分があります。
鉄骨梁は逆梁状になっています。
現代の設備であるダクトレイアウトがあります。
1階南側トイレ棟などへの連絡出入口
長い年月の間に転用されたときにレンガが取り除かれた部分が、レンガで補修されるのではなく、鉄筋コンクリートで補強されています。
東側外壁
お客様に『レンガが好きだ』とおっしゃる方がいます。
鉄筋コンクリート造でレンガ張りの建物は、事例としてはたくさんあります。
一般の人がイメージするレンガの建物とは、レンガ組積造の旧本庄商業銀行煉瓦倉庫のような建物だと思います。
組積造だけでは、建築基準法構造規定では制約がとても大きく、このような大きな建物は建てられません。
旧本庄商業銀行煉瓦倉庫は、組積造のプロポーションやディテールを、現代に復元させる設計手法を学ぶことができる貴重で高度な設計事例です。
旧本庄商業銀行煉瓦倉庫
所在地: 〒367-0052 埼玉県本庄市銀座1丁目7−16
電話番号: 0495-71-6685
営業時間:9時00分~19時00分
上記は、2024年8月の情報です。詳しくは旧本庄商業銀行煉瓦倉庫のホームページをご覧ください。