住宅/ビル/マンションのデザイン建築設計事務所をしている片岡直樹が向学のために名建築を訪ねるシリーズです。
今回はいつもと少し趣旨が違います。
最新の耐火木造技術の勉強のため、 木質構造部材の研究・設計・製造・販売で有名なシェルター様・日本木造耐火建築協会様主催の豊洲千客万来完成見学会に参加・拝見させて頂きました。
食楽棟豊洲場外江戸前市場と温浴棟東京豊洲万葉倶楽部からなる複合商業施設です。
食楽棟は日本最大規模の木造耐火商業施設です。
木戸門 ゆりかもめ『市場前駅』直結ペデストリアンデッキから
疫病退治の妖怪アマビエの鬼瓦がある番屋の棟が正面にあります。
左手と正面の建物は番屋をイメージした耐火木造、右手の蔵をイメージした建物は3層鉄骨造木装化のエスカレーター棟です。
木戸門 豊洲目抜き大通り
部材は東京の多摩産材が使用されています。御影石や、淡路瓦などを用いることで、江戸後期の情緒、風情ある町並みを現代に再現することをコンセプトとしているそうです。
屋根の納まり
屋根裏がデザインの要となり、化粧タルキを現しにすることで、江戸の街並みを構成していると言っても過言ではありません。耐火構造(一時間)で実現するために、二重垂木(タルキ)とすることでクリアさせています。
まず、軒のない30分耐火構造の屋根を作るそうです。部材の構成は、屋根面にガルバリウム鋼板、天井面にはGB-F強化石膏ボード15mm+GB-F強化石膏ボード12.5mmの2枚張りとしています。その上に化粧垂木(タルキ)を乗せ瓦を葺(ふ)いています。
片岡は、耐火木造の勉強不足でよく理解できていないのがこの部分です。化粧垂木(タルキ)には耐火性能や防火性能が必要ないという理屈がわかりません。屋内外で火災が発生した際に、構造躯体が全く燃えず、倒壊しないので、可燃物を屋根に乗せてもいいのでしょうか?化粧垂木・下地も含めて木材は全て不燃処理されているということでしょうか?延焼ラインにかからなければいいということでしょうか?ここは2階以上です。敷地境界から10m離れているとは思えないのですが、わかりません。
法令解釈も含めて非常に高度な設計です。勉強になります。
1階は鉄骨造。2階・3階は木造の立面混構造です。2階と3階の木造部の柱と梁にシェルター様の木質耐火部材coolwood、1時間耐火仕様がつかわれています。
食楽棟 東京豊洲江戸前市場 地上3階 地下一階建てが手前にあり、温浴棟 東京豊洲万葉倶楽部 地上9階地下1階建てが奥に見えます。
建物は、豊洲市場の仲卸棟に隣接して、環状2号線沿いにあります。
別棟駐車場が先行して建設してあります。地下水問題があり、地下深く掘り下げて駐車場をつくれないため、別棟で、建設せざるを得ない事情があるそうです。
1階は道路に面して店舗が建ち並び、奥にバスの駐車場があります。
鉄骨造木装化(一時間耐火建築物)
鉄骨造の『木装化』という考え方が取り入れられています。
はじめて聞きました。勉強になります。
エスカレーター棟はエキスパンションジョイントで別棟となり、鉄骨造の『木装化』仕様です。
この地域は、防火地域となっていますので、100㎡を超える建物には耐火構造とすることが要求されます。
木造エリアの食楽棟は2階と3階、合わせて約5300㎡あります。
木造柱脚金物+鉄骨柱梁脚金物
外壁:窯業系サイディング
内壁:GB-F(V)21mm+21mm(告示仕様)
外壁:木製羽目板15mm
外壁材・天井材・柱梁は、東京の木 多摩産材を採用し、屋根には、いぶし銀の淡路瓦を採用しています。
手前が蔵をイメージした鉄骨造木装化のエスカレーター棟です。
奥の木造耐火構造とは、エキスパンションジョイントで接合されています。黒いラインがエキスパンションジョイントと思われます。
芝居小屋をイメージしているお土産店舗
江戸時代の建物を木造耐火構造で再現するには、大きなギャップがあることがシェルター様の説明にありました。
なまこ壁風外壁は、告示仕様で1時間耐火の壁に木格子を施した仕様です。
木造耐火構造と在来木造の違い
1.柱・梁をそのまま現すことはできません。
2.本来の真壁で構成できません。
3.化粧として表現するには工夫が必要です。(二重垂木など)
4.木造耐火には告示仕様と個別認定仕様をそれぞれ部位ごとに採用する。
2階 漫遊倶楽部入口 鉄骨造9階建て部分です。
内壁:GB-F(V)21mm+21mm(1時間耐火個別認定)
右側入口壁面が、耐火木造と鉄骨造9階建てとのエキスパンションジョイントライン
耐火木造の範囲ですが、鉄骨階段仕様です。強化石膏―ド2重張りの厚ぼったい階段を避けるための賢い選択なのだと思います。
区画が、常閉防火扉です。
木造なので配管を露出でまわしています。
3階 フードコートよりどり町屋
屋根:耐火構造30分 金属屋根(ガルバリウム鋼板)
天井側:GB-F15mm+GB-F12.5mm
梁・束:COOLWOOD(1時間耐火個別認定)(多摩産材)
3階床:ALC125mm(1時間耐火告示仕様)+構造用合板+二重床+パーティクルボード+耐水合板+床仕上げ
3階 フードコート
梁にはCOOLWOODの1時間耐火仕様+燃え止まり層となる強化石膏ボード+多摩産木材
奥に見みえる9階建てのビル 温浴棟は、箱根湯河原温泉のお湯をトレーラーで運搬し、湯どころ。岩盤浴、エステ、マッサージなどがあります。屋上には豊洲の景観を一望できる展望足湯庭園があります。
耐火時間のコントロールとしてエキスパンションジョイント
温浴棟は9階建てで、2時間の耐火要求がありますが、エキスパンションジョイントで構造分離しているため、食楽棟は、1時間耐火となっています。
1階鉄骨造と2・3階木造の混構造の接合部
2階床のスラブの上の鉄骨梁から、T字型の柱脚金物を溶接して、次に、コンクリートスラブと柱脚の根巻きを行い、その後、木造用の柱脚金物と、鉄骨からの柱脚を溶接接合しているようです。
その後、柱、ブレース、梁を柱脚金物や梁受け金物に取り付け、ドリフトピンで接合させています。
勉強させて頂きました。
2階 左の棟は、エスカレーター棟で3層鉄骨造木装化。 右の棟は、耐火木造2階建て1時間耐火仕様
豊洲目抜き大通り 長屋のイメージ 2階は物販店、飲食店
すごいにぎわいです。
建物全体は1階が鉄骨造の木装化。2階3階が木造耐火構造の立面混構造となっています。
エスカレーター棟は3層とも鉄骨造で、木装化されています。
江戸前広場 時の鐘広場 半鐘(はんしょう)
この塔状の建物は鉄骨造を木装化したものです。
3階 渡り廊下から豊洲目抜き大通り 長屋のイメージ
豊洲目抜き大通りの頭上を通り、二つの渡り廊下がお互いの棟をむすぶ回遊動線となっています。
屋根形状に変化をみせるため30分耐火屋根の上に小屋を乗せています。
この建築計画は、豊洲市場の地下水汚染問題等を受け、一時中断となったそうです。その後、様々な問題解決のために、2年の歳月が費やされて、2020年設計の再開となったそうです。その間、新型コロナウイルス感染症や建築資材の高騰などがあったそうです。
その一端なのか、いぶし銀の淡路瓦を宣伝している建物なのに、屋根が瓦葺でなくガルバリウム鋼板仕上となってコストダウンされています。
デザインコンセプトを削らなければならない苦しい選択があったことがうかがえます。
3階 渡り廊下
3階は2本の渡り廊下があり、回遊性のあるプランです。
柱・梁はCOOLWOOD(1時間耐火仕様)
3階 フードコート
梁にはCOOLWOODの1時間耐火仕様+燃え止まり層となる強化石膏ボード+多摩産木材
上部に排煙窓がついています。
大店(おおだな)をイメージした温浴棟へアクセスするエントランス 万葉倶楽部玄関ホール
温浴棟東京豊洲万葉倶楽部 8階の無料足湯のフロアです。
対岸の景色は晴海フラッグです。レインボーブリッジも眺められます。
女性の方は、ストッキングを履いていかない方がいいみたいです。
8階に無料の足湯があることを知らないで来てしまった女性で、ストッキングを履いたカップルが何組も、揉めていました。
200円で、タオルを売っています。夜8時まで営業していて、夜景も眺められます。
耐火木造技術の勉強に来た同業者としては、悲しいですが、千客万来の一番の売りは、高度な耐火木造のデザインではなく、この足湯のようです。
足湯は大人気です。
耐火木造の普及
豊洲市場に隣接する場外市場として東京都が公募し、プロポーザルの結果、万葉倶楽部様が採択されたそうです。
施主でもある万葉倶楽部一級建築士事務所が企画設計、全体設計は、五洋建設本社一級建築士事務所 木造部分の設計は、シェルター建築設計事務所の担当だそうです。
2021年10月に、脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律通称:木造化推進法が施行されました。
公共建築物だけでなく、民間の建築物にも積極的に木材を活用し、都市と地方の経済循環による地方創生や雇用創出、再造林による脱酸素社会への貢献など、様々な効果が期待されています。
木造耐火技術という革新的な技術が生まれ、今後 大規模構造の木造耐火建築が普及していくと思われます。
耐火建築物設計の技術的要件
耐火建築物には、屋内外で火災が発生した際に、構造躯体が全く燃えず、倒壊しないことが求められます。
建築基準法では、耐火建築物を設計する方法として、ルートA・ルートB・ルートCの三つの方法が規定されており、木造建築物でルートAを採用する場合「メンブレン型」「燃え止まり型」「鋼材内蔵型」の3通りが実用化されています。
ルートA
(仕様規定)
- 各主要構造部(壁・床・屋根・柱・梁・階段の6部位)を耐火構造とする。(法2条9号のニイ(1))
ルートB
(国土交通省告示の耐火性能検証法によるもの:性能設計)
- 各主要構造部について、国土交通省告示の耐火性能検証法により、安全性を確かめる。(法2条9号のニイ(2))
- 延焼の恐れのある部分の外壁開口部を「防火設備」(令109条)とする。
ルートC
(高度な設計法として、国土交通大臣が認めるもの:性能設計)
- 主要構造部が基準に適合するものとして、国土交通大臣の認定を受けた構造とする。(法2号9号のニイ(2)
- 延焼の恐れのある部分の外壁開口部を「防火設備」(令109条)とする。
木造建築物でルートAを採用する場合、実用化された「メンブレン型」「燃え止まり型」「鋼材内蔵型」
被服(メンブレン)型=芯材(木材)+耐火被覆
芯材(木材)を強化石膏ボードなどで被覆することで、メンブレン層(耐火被覆)を形成し、所定の耐火性能を確保する。
燃え止まり型=芯材(木材)+燃え止まり層+燃え代(木材)
芯材(木材)を難燃処理、木材、モルタル、石膏ボード等で被覆することで、燃え止まり層を形成し、所定の耐火性能を確保する。
鉄骨内蔵型=芯材(鉄骨)+燃え代(木材)
芯材(鋼材)を木材で被覆することで、所定の耐火性能を確保する。構造計算上は鉄骨造。
ミナカ小田原との比較
類似の建物として、施主様が同じ万葉倶楽部様のミナカ小田原があります。ミナカ小田原は、4階建て木造の商業施設で3時間耐火が装備されていました。
日本最大級の木造商業施設|神奈川県の有名建築|耐火木造4階建て|ミナカ小田原|住宅/ビル/マンション設計者の建もの探訪
その点では、ミナカ小田原の方が耐火構造の設計技術難易度が高いのかもしれません。
ただ、千客万来の設計は、厳しい制約を突破して無理に高度な技術で耐火木造とするのではなく、江戸風味の意匠実現が必要な個所だけに耐火木造をとどめて、混構造と別棟化・エキスパンションによる耐火時間の低減をおこない、鉄骨造部分には『木装化』という技法で、スマートな耐火木造の方法にも見えます。
大変勉強させて頂きました。
末筆ながら、シェルター様・日本木造耐火建築協会様にお礼申し上げます。ありがとうございました。
豊洲千客万来
〒135-0061 東京都江東区豊洲6丁目5番1号(豊洲市場に隣接)
※2階にてゆりかもめ「市場前駅」とペデストリアンデッキで連結
≪ゆりかもめ 「市場前駅」から徒歩4分≫
≪東京BRT 「豊洲市場前」から徒歩3分/「ミチノテラス豊洲(豊洲市場前)」から徒歩7分≫
≪都営バス 「市場前駅前」から徒歩5分/「新豊洲駅前」から徒歩9分≫
駐車場
●施設利用の場合の基本料金
<全日> 20分ごと 300円
●駐車料金サービス
「豊洲場外 江戸前市場」各店舗をご利用のお客様
「豊洲場外 江戸前市場」各店舗でのお食事・お買い物の金額を合算して、 合計金額に応じてサービスを受けることができます。
お食事・お買物合算2,000円以上…2時間無料 以降20分ごと 300円 お食事・お買物合算3,000円以上…3時間無料 以降20分ごと 300円
「東京豊洲 万葉倶楽部」をご利用のお客様 7時間まで 1,200円 以降20分ごと 300円
深夜料金をお支払いのお客様・客室利用のお客様
上限20時間 1,800円 以降20分ごと 300円
専用駐車場となりますので、当施設で2,000円以上ご利用にならない場合、 基本料金は<全日> 20分ごと500円となります。
※「豊洲場外 江戸前市場」「東京豊洲 万葉倶楽部」の駐車料金サービスは合 算できます。 ※表記はすべて税込となります。
情報は2024年3月10日のものです。