住宅/ビル/マンションのデザイン建築設計事務所をしている片岡直樹が向学のために名建築を訪ねるシリーズです。群馬県太田市にあります平田晃久先生による設計の太田市美術館・図書館を見学してきました。職員の方の許可を頂き外観と内部撮影をさせて頂きました。新建築 2017年5月号に発表された作品です。
市民ワークショップによる設計プロセスを巧みに使ってこの形態プログラムへ導く手腕は、相当凄いことだと思います。もうこれは一年で最も優れた建築作品に贈られる賞である日本建築学会賞受賞まちがいなしじゃないでしょうか!!こんな素敵な建物がある太田市の人たちがうらやましいです。私はそう思います。 東京で似たプログラムの建物として思い浮かぶのは、私は中央線武蔵境駅前にある川原田康子先生+比嘉武彦先生/kw+hg アーキテクツ設計による日本建築学会賞受賞作品である武蔵野プレイス・境南ふれあい広場公園しか知りません。 武蔵野プレイス・境南ふれあい広場公園のリンクはこちら→http://www.musashino.or.jp/place.html 上の写真は、東武伊勢崎線・桐生線・小泉線の交点 太田駅前からの眺めです。駅からの帰りがけに立ち寄るような素敵なライフスタイルが想像されます。カフェが見え屋外テラスに上る階段があります。低いフェンスで利用を区切っています。ゆるやかな領域の区切り方の事例が勉強になります。
南西外観
ガラスカーテンウォールで内部が見え、傾斜したスラブ勝ちで見せるスロープが興味をそそります。鉄筋コンクリート造のボックス部分で柱と壁の納まりが内面合わせで柱型が露出しているのは何か理由があるのだと思いますが、外観としては異様に見えてますます興味をそそります。梁と室外機置場のスラブレベルとも離れているように見えます。
北東外観
3方向が道路に囲まれているので建物が象徴的に見えます。外観を見てどんな建物か知らない初見でも、屋上やスロープに人がいたり、とても興味をそそり建物に入ってみたくなる外観です。 車社会の環境でわかりやすく建物周りに駐車場が配置されていて合理性があるのだと思いました。円弧状配列で駐車スペースがあります。平凡なプランでは、車歩分離で建物外観から駐車場を遠ざけて成形な駐車スペースを確保しようとすると思います。スロープの傾斜をフラットな面とのつなぎ方が階段部分もあるためガタガタに折れていて天井スラブとも並行ではないのでとても複雑にみえてとても興味をそそります。街の人を引き付けるデザインでとても勉強になります。
北側外観
建物(ボックス)のまわりにスロープが巻き付いた外観は、一般的にはハウルの動く城などを連想させると思います。今にも動き出しそうな動的なデザインをスロープが演出して屋上に生える植栽が見えるのがとても興味をそそられると思います。
3Fテラス
屋上の庭園が傾斜しているので立面的に緑が見えるので素晴らしいです。RCボックス部分で植栽し、鉄骨造スラブ部分をデッキ+防水としているのでしょうか。防水の区分としても合理性があるのだと思います。デッキと傾斜した屋外庭園の段差を鉄骨階段で処理しています。転落防止のネットフェンスが目立たないので緑が映えます。とても勉強になります。 デッキフロア自体も折れていてフラットではないようです。鉄筋コンクリート造のボックス部分もランダムな配置で直交していないのでデッキ材の敷方向がすごいことになっています。
3Fテラス芝の傾斜
とてもきつい傾斜の屋外庭園部分では枕木階段がありました。これだけ急な芝生面は雨で洗堀が起きる危険があり、なかなかできないと思います。 芝生の育成は案外とても難しいです。湿潤すぎてもコケに負けて芝がだめになりますし、屋上で客土が薄くなると保水力がないので、自動潅水設備の水が少なくなり枯れることもあります。逆に土に保水力が不足する場合、給水を連続することになり、芝がいつも濡れていて『腰を下ろして芝に座ることもできない利用価値のない芝』とおっしゃる方もいらっしゃいます。メンテナンスがとても大変なものです。私は傾斜芝生も屋上芝生も設計経験があります。洗堀防止で土留め工法の埋設物を仕込む見えないテクニックが必要になります。屋上で日照が多く得られることが、芝生育成に成功している要因だと思います。
3Fテラス
急傾斜芝生面をテラスから見上げた様子です。
3Fテラスから
天井デッキ表しがいろいろな方向に流れています。鉄筋コンクリート造のボックスとのとりつき方はスラブレベルがいろいろなのでスロープや段差で傾斜していたり、さらに平面的にもカーブしていて、とても複雑になっていて興味深いです。
3F学びの道
吹き抜けから下の階を見通せてほかの階の人たちの様子が見れるのが楽しさを演出していると思います。この手法は先行して建てられた武蔵野プレイスに共通するにぎわいを演出する手法だと思います。
3Fレファレンスルーム
この部屋だけ色使いがシックでシャンデリアが素敵です。
2F学びの道
西日をよけるスクリーンが傾斜した天井面から下げられています。LOW-Eガラスを使用して遮熱していると思いますが、西日に向かって閲覧テーブルがあるのは景色が見えて良いこともあると思いますが、どうしてもこうなると思います。 ここで気が付いたことは、見学した日は、この建物はとても人がおおぜい集まっていて活気に満ちあふれています。西日のきついこの場所には空席がありますが、スロープをめぐる人や、本を階段にすわって読む人もいます。直射日光のあたる屋外テラスで本を読んだり思い思いに居心地や眺めの良いところを自分で見つけて楽しんでいるように見えました。 すべての場所が均質に利用できる静かな読書をする図書館とは違います。しかし、人の集まる場所として成功しているのは、この建物が美術館とか図書館とかプログラムや用途にとらわれず、それを乗り越えた魅力にあふれているからだと思います。たとえこの建物の用途が倉庫や教会であっても街の人を引き付ける魅力に変わりはないのだと思います。