住宅/ビル/マンションのデザイン建築設計事務所をしている片岡直樹が向学のために名建築を訪ねるシリーズです。
福島県郡山市にあります郡山市立美術館です。
職員の方の許可を頂いた範囲で撮影させて頂きました。
設計は、柳澤孝彦先生です。
故柳澤孝彦先生は、スーパーゼネコン竹中工務店設計部プリンシパルアーキテクトから、新国立劇場の設計コンペで一等となり独立されました。
ゼネコン設計部からのサクセスストーリーを体現したとても有名な建築家です。
新建築1993年1月号に発表されています。
第13回福島県建築文化賞奨励賞、第35回BCS建築賞(1994年)、1995年度日本芸術院賞、第6回公共建築賞、公共建築百選 日本建築学会作品選奨 を受賞しています。
石の広場と池の間に伸びるキャノピーは100m近くあります。
荘厳です。
石の広場越しに曲線の大屋根に覆われた美術館のファサード
外構床:花崗岩 敷石および長尺石
屋根:ステンレス鋼板t=0.8 フッ素樹脂塗装 発泡フォームポリスチレンt=4.0 裏打 瓦棒葺嵌合タイプ
自然から建築へのシークエンスを表現した石の広場の構成がすばらしいです。
穏やかに南から北に自然に傾斜した地形そのままのコンターすべてが石の広場として広がり壮観です。
石の広場は、北のプロムナードに向かって穏やかにくだります。
この石の広場は、もともとの地形にそってつくられています。
建物の足元には水が流れるカスケードがあります。
ガラスのエッチングパターンは、ペアガラスの内側に2重に施されているそうです。
池カスケード:花崗岩小舗石舗装
下屋根の防水はゴムアスファルト防水
展示ロビーと池
石の広場の南端から建物に沿ってカスケードを流れ下った水はこの池に注ぎます。
建物の下に落とし込むようなスリットの排水溝の構成が素晴らしいです。
撮影時は池に水がありませんでしたが、水があると水盤に建物が浮いてるような表現になります。
憧れのシビれるディテールです。
エントランスと池 カスケード超しの展示ロビーのガラスカーテンウォール
外構床:花崗岩 敷石および長尺石
カーテンウォール:アルミ製電解2次着色 爪掛け式バックマリオン H200×110×19×9
ガラス:透明断熱複層ガラス、t6+A6+6
サブエントランスのカスケードを流れる水の排水グレーチングディテール
床下に落とし込むようなスリットの納まりが素晴らしいです。
サブエントランス
美術館の建物から石の広場に突出する形で構成されています。南北に開かれて美術館と森に閉じられています。
エントランスホール
天井:木練付け不燃ボードt12 小幅板目透かし張り
壁内装:ホワイトコンクリート打放し 杉小幅板本実型枠 撥水性表面処理剤塗布
床:トラバーチン大理石t=25水磨き
ボーダー:木製(ホワイトオーク)ポリウレタン塗装
ホワイトコンクリート打放しとは
『ホワイトコンクリート打放しによる美術館建築 郡山市立美術館』
という柳澤孝彦先生による工事記録のサイトを拝読しました。
ホワイトコンクリートとは、白色セメントをセメント材として用いたコンクリートとのことです。
しかし、そんな簡単にはマネできません。
柳澤孝彦先生は、着色セメント 顔料 白御影石骨材などさまざまな施工実験をおこない、ホワイトコンクリート打放し仕上の仕様を決定されています。
このなかで、ホワイトセメントと普通セメントの違いがコンクリートにもたらす強度の影響についても問題はないと判断したと柳澤孝彦先生は見解を述べられています。
この建築は、柳澤孝彦先生が、知識を検証し、疑念を解消し、問題解決する思考過程を経てたどりついた建築美の境地です。
片岡の常識では考えられない、探究です。
杉板小幅本実型枠
杉板本実型枠についてもいくつかのパターンを制作して検討したそうです。
柳澤孝彦先生は実験の結果を述べられています。
本実型枠の仕上をプレーナーがけの平滑仕上とした方が、粗面仕上に比べて出目地の具合は良好な状態であった。
打ち上がり面の状態は、型枠表面を単に剥離剤塗布としたものが最も良好、次いで、無処理(地板)のものが比較的良好。
型わく材の杉小幅板の表面仕上げ方法としてプレーナーがけの平滑仕上げが、ならびに表面処理方法として剥離剤塗布が適切な条件であることが判明したとあります。
片岡はべニア木目の表現をした普通型枠コンクリート打放しの経験があります。剥離剤を塗布しています。
しかし、現代では、単純にマネをしても、一発で成功させることができないことを片岡は経験済です。
片岡が設計してべニア木目の表現をした普通型枠コンクリート打放しを仕様に入れたのは、この建物の6年後と23年後です。
今は、コンクリート打放しの施工技術のなかで、補修技術が発展して杉板型枠など木目仕様のコンクリート打放しが実現されています。
現代では、塗装型枠コンクリート打放しでさえ全面補修があたりまえです。
そのなかで、
+一発で、
+出目地で、
+杉小幅板本実型枠で、
+大面積で
+ホワイトコンクリートで
打放し仕上を成功させるのは、
まさに偉業です。
勉強させて頂きました。
ロビー
ホワイトコンクリート打放しの壁と木製壁のパターンモジュールが統一されています。
一方は出目地、他方は底目地と反転されています。
光を砕く出目地
柳澤孝彦先生は、新建築の設計ノートのなかで、この出目地について言及されています。
『建築構造を表すことのできる部分はすべて出目地を伴うホワイトコンクリート打放しとして、構造体の質量を素直に表現すると共に、光を砕く出目地がつくり出す繊細な表情の変化を期待している。』
出目地とは光を砕く表現だったのです。
勉強になります。
外壁と床とガラスカーテンウォール方立と無目の両方で目地がそろっています。凄いです。
2階 エレベーターホール
床:ならフローリングt=15CL
2階 エレベーターホール 階段前の石の広場を眺める窓
左の壁が窓まで通らずに、小壁があります。
1階 展示ロビーカフェからの見返し ガラスカーテンウォール 窓 ディテール
写真右手の壁面は、多目的スタジオ・創作スタジオがあります。
ちなみに片岡は、柳澤孝彦先生の富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館も見学させて頂いております。
郡山市立美術館
住所:〒963-0666 福島県郡山市安原町大谷地130−2
営業時間:9時30分~17時00分
定休日:月曜日
電話:024-956-2200
観覧料:常設展のみ一般個人200円
上記は、2023/3/16現在の情報です。詳しくは郡山市立美術館のホームページをご覧ください。