住宅/ビル/マンションのデザイン建築設計事務所をしている片岡直樹が向学のために名建築を訪ねるシリーズです。
今回はいつもと少し趣旨が違います。
最新の耐火木造技術の勉強のため、 木質構造部材の研究・設計・製造・販売で有名な株式会社シェルター様主催のミナカ小田原完成見学会に参加・拝見させて頂きました。ミナカ小田原低層木造棟の木造部実施設計をされている会社です。
コンセプトは『未来の宿場町小田原』となっています。
江戸時代の宿場町の旅籠屋(はたごや)のような建物を、現在の法令に対応した最新の耐火木造技術を用いて建設するとどうなるかを具現化した大変興味深い建築です。
最新の木材を用いた耐火技術の知見を勉強させて頂きました。
1.2階は鉄骨造一部木造 3,4階は木造で床スラブは全層鉄筋コンクリート造の混構造です。異なる構造との取り合い部における耐火性能の確保技術が用いられています。
提灯がディスプレイされた2時間耐火構造の吹抜け部外観
外壁木部の仕上げは、1階が杉材(厚15mm)+キシラデコールエボニー2回塗り、2階が杉材浮きづくり加工(厚み16mm)+ キシラデコールやすらぎ2回塗り
お城通りからの眺め 木造4階建ての外観
1から3階が店舗、4階部分が宿泊施設です。背後には高層棟があります。
タイル壁の部分にエスカレータがあります。
エスカレーター部特注タイル詳細
4階建ての木の柱と梁が見えます。耐火性能はどうやって確保されているの?
仕様規定である令107条平12建告1399号 法2条9号の2イ(1)(2)では、1時間耐火までの規定しかありません。
メンブレン型耐火構造の認済(大臣認定の個別認定を言います。)、燃え止まり型耐火構造の認済による認定か鋼材内蔵型耐火構造の認定のいずれかの2時間・3時間の認定を組み合わせる必要があります。
この建物では、シェルターさんのcoolwood燃え止まり型耐火構造が用いられています。
シェルターさんのcoolwoodは、3時間耐火の大臣認定の個別認定を取得しています。 これが耐火木造の秘密です。
吹抜けの内部に提灯がディスプレイされています。
耐火木造独立柱詳細
柱のスケール感が普通の人がイメージする木造家屋の柱の倍近くあります。
これは、荷重支持部の柱だけでなく被覆層(強化石膏ボード層)と化粧木被覆層が柱の外側に巻かれているためです。
それでも、 シェルターさんのcoolwood燃え止まり型耐火構造 は、いくつかある認定の取れた耐火木造柱の比較の中では被覆層が薄い部類となっています。
また、これだけ太くて4階までとどく長い 柱だと、一般の人は森から太い立派な木を切り倒して使っていると思われるかもしれませんが、表面に見える木材は薄くくるまれた木化粧被覆を貼り合わせたもので芯材は集成材です。
シェルターさんの高い技術がそうみせているだけでフェイクです。
私は江戸東京たてもの園で、耐火性能の無い一般の人の原風景にある旅籠屋などの3階建て木造建築を見学したことがあります。
構造材のスケール感がまったく違います。よろしければ、下記のリンクからご覧頂ければ幸いです。
江戸東京たてもの園|住宅/ビル/マンション設計者の建もの探訪
1階 エスカレータ裏 店舗前軒下外部廊下
1階 エスカレーター裏側の店舗
1階2階の用途が店舗なので柱間隔スパンを大きく取るため鉄骨梁となっています。
1階 軒下外部廊下
店舗サイン
2階 提灯がディスプレイされた吹抜けと廊下部
2階は廊下窓にサッシがあり内部廊下となっています。2時間耐火の吹抜けと内部廊下 サッシ取り合い部
天井部では鉄骨梁が木柱に接合して混構造であることがわかります。
2階 内部廊下 1,2階本体は鉄骨造との混構造です。 旅籠屋のスケールに天井の設備が見えます。
2階 内部廊下側 1時間耐火構造仕様の外壁と軒先部
この化粧垂木の軒先部分は本体屋根とは別で、軒先部は飾りです。
本体と縁が切れていて耐火性が必要ない部分となっていて、ぱっと見ただけではわかりませんが、通常の木造とは耐火性能の確保の影響で作り方がまったく違います。
3階の金次郎広場です。1・2階は鉄骨造との混構造により一部2時間耐火木造となっています。写真はコンクリート床の上に1時間耐火の木造家屋が建てられた3階と4階部分です。
耐火木造なのにどうして床はコンクリートなの?
木造床ではCLTなどの構造を取ることも可能だそうですが、木はコンクリートと比較して面密度が低く、遮音性能が劣るので床だけはコンクリートを用いることが、大規模木造のオフィスや店舗ではスタンダートのようです。
他の2社さんの大規模木造専門の設計施工会社さんに聞いたことがありますが、賃貸仕様の共同住宅の木造建築などでは、CLT床よりも通常のツーバイフォー構造で天井と床を別々にプラスターボードで耐火被覆をしてグラスウールや遮音マットなどをあいだにはさみ仕込んだ仕様の方が、CLTより遮音性があるとの事でした。
建物全体がCLT構造でも床だけはCLTを使わないという設計思想が一部あるようです。
CLTとは、Cross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)の略で、板の層を各層で互いに直交するように積層接着した厚型パネルのことを呼びます。
この建物ではCLTは使われていません。
3階 金次郎広場の1時耐火の木造店舗軒下の柱部分
3階 金次郎広場 1時間耐火木造の柱と床コンクリートスラブとの接合部分
3階 店舗階段室と廊下 竪穴区画ガラス壁部分
3階 階段室竪穴区画部分から廊下を経て自動ドアで金次郎広場に出る部分の天井納まり
3階 階段室竪穴区画と廊下・店舗区画
3階 階段室竪穴区画開口部と廊下・店舗区画出入口部
3階 階段室竪穴区画開口部
3階 金次郎広場の1時間耐火仕様の外壁 この個別認定仕様の外壁を使用することが出来るのは、特定の団体に所属した会員だけのようです。
3階 金次郎広場と軒のある3階店舗と4階旅籠屋宿泊施設いずれもい1時間耐火木造
3階 店舗廊下吹き抜け部分 1時間耐火構造仕様
3階 店舗廊下は外部となっていて廊下面には窓サッシがありません。その先に1時間耐火の吹抜けがあります。
3階 店舗ガラス壁区画とサッシが無い外部に面した廊下
天井にスプリンクラー設備か感知器かが付いています。防火区画があるので埋込設備が難しいのでしょうか。消防設備が露出しています。
3階 廊下
2階 廊下外部階段からの見返し
1階側は1時間耐火認定仕様の木外壁です。3階へ行く外壁側は木ではなく木調サイディングです。
高層棟14階 屋上には、足湯施設が屋外デッキ東屋下にあります。
高層棟屋上から小田原城と相模湾が眺められます。
事業主様が求めている 耐火木造技術 との違い。
事業主様がイメージする耐火木造は、木が燃えなくなったと解釈しているように思います。
技術者は、木ではないことを知っているのに、木を燃えないように加工して見かけが木に見えるようにして事業主様や社会に受け入れられるように努力しているように見えます。
事業主様の夢を実現するために、技術者が努力していますが、事業主様の夢とこの技術は違うと思います。
事業主様は
『木』だから人にやさしい。
『木』だから環境に良い。
『木』木だから安い。
大きな建物もコンクリートや鉄を使わず、『木』でつくることができれば素晴らしい。
その通りだと思います。しかしながら・・・
一般の人が心象風景として見ていた木造建築の『木』の表現にこだわるのではなく、新しい技術を新しい表現で建築にした方が良いと思います。
例えば、鉄筋コンクリート造の現在の名古屋城を、この耐火木造技術を用いて木造で復元したとしても、それは鉄筋コンクリート造の名古屋城と同じ価値しか持たないと感じました。
ニセモノ=フェイクです。
名古屋城の復元は本来の木造で復元して、ドレンチャー・スプリンクラーをつけて燃えないようにして、不足する構造耐力は、地下に免震層を設けて、入力する地震力を低減する方が良いと思いました。
木の柱に耐火被覆層を巻いてさらに外側に木を巻いて木の柱に見せるわけですから、同じ構造耐力でも、
耐火木造は木造と柱の太さが違います。
柱と壁に境がある真壁つくりの木造建築を表現するには、耐火木造建築は無理があり、見ていて不自然です。
耐火木造に使われるのは木ではなく、耐火被覆処理をした木だということが共通認識として周知されないと事業主様のイメージと齟齬が生じて難しいと感じました。
悩ましい問題です。
大変勉強になりました。
また、別の視点では
天井が低いと感じますが、それは昔の日本家屋を現代で再現しているからだと気づかされます。
昔の日本家屋の生活は床に座る生活で椅子ではないことに気づきます。