2017年6月ロンドンのグレンフェル・タワー火災 2015年2月ドバイの超高層住宅ザ・トーチ火災 2010年11月上海高層住宅火災 2009年2月中国北京テレビ文化センターTVCC火災 外断熱仕様の中高層ビルでの外壁材火災事故がありました。外断熱設計は、雨仕舞設計・断熱設計・防火設計など多様な性能を高度な安全性で両立させることを要求されるため、高度な設計技術が必要な仕様です。
外断熱の設計仕様についてお施主様に知ってほしいことをまとめてみました。これからマンションの大規模修繕をお考えのマンション管理組合の方や賃貸マンション経営をお考えのマンションオーナー様 外断熱の建物建設をお考えのお施主様のお役に立てれば幸いです。
ロンドン高層住宅 グレンフェル・タワー
2017/6/14のグレンフェル・タワーのロンドン火災は、1974年建設 高さ68m 24階建ての築43年のマンションで、約120世帯が入居していたと言われています。2016年に外断熱改修・大規模修繕がおこなわれていたようです。
ロンドン高層住宅火災の原因
火災の発生原因は冷蔵庫からの発火と言われています。火災が広がった原因は外壁の外断熱改修・大規模修繕により外壁材の構成の中に断熱材として有機系断熱材が施工されていたことが原因と推察されています。
硬質ウレタンフォームの一種である難燃性が高いとされるポリイソシアヌレートフォームの断熱材(日本では、金属サンドイッチパネル内装不燃イソバンドの断熱材として建築基準法不燃材料認定品や外断熱で利用できるアキレスボードなどがあります。)を張り、通気層を設けたうえで、亜鉛と思われる金属系パネルで覆われていた仕様といわれています。この通気層に炎が入り込み通気層が煙突効果により断熱材を燃やしながら上階に火災が広がっていったとみられています。
また、壁や柱に延焼を防ぐファイアストップは入れてあったとみられています。しかし、炎が金属系パネルの継ぎ目などから通気層に入り込み断熱材を燃やしながら広がっていったとみられています。
ポイント
- スプリンクラー設備など建物内部の防火設備が作動しても、外壁の延焼は止められません。
- 外壁が、燃えるので屋外避難階段による避難ができなくなります。
- バルコニーは上層延焼の抑制効果が見込めます。(グレンフェル・タワー ザ・トーチ TVCCにはバルコニーがありません。)
- 空気層を設けると遮熱効果が見込めます。しかし、空気層が煙突になり延焼が拡大します。
- 外断熱では、断熱材を被覆する外装金属パネルやサイディングがある場合、断熱材が着火する火災では、消火活動の妨げになってしまいます。
断熱材の耐火性能
硬質ウレタンフォームなど発砲有機系断熱材に耐火性能はありません。対して無機系断熱材はどうでしょうか。
グラスウールは、300℃で耐火性能は無くなります。
ロックウールは、400℃から700℃で耐火性能は無くなります。
住宅で火事が発生すると、通常、室内の温度は火災発生5~10分程度で500℃に達すると言われています。
天井が焼け落ちるような大きな火災になると、1,000℃以上になります。
ロックウール グラスウール共に一定の時間は火災に耐えられますが、燃えにくいだけで、燃えないというわけではありません。
炎は、燃える材料にもよりますが、低いものでも1200℃程度あります。
ちなみに、鉄骨を切る溶接バーナーの炎の温度は、3000℃あります。
発泡ポリエチレンなど石油系断熱材は、表面がアルミなどで覆われたイソバンドを外壁仕上げとした乾式外断熱や樹脂モルタルで被覆した湿式外断熱で用いられます。しかし、何かの拍子に、断熱材に接炎すれば燃焼するといわれています。
ポイント
- 耐火材や不燃材の耐熱温度より炎の温度の方が高い。
- 耐火材や不燃材の耐熱温度より火事の温度の方が高い。
- 耐火材料であるロックウールを断熱材として用いる方が耐火温度が高く安全になります。
日本の湿式外断熱工法で多用されている硬質ウレタンフォームの燃焼性状
小火源を接炎させ続けた場合、一般的な硬質ウレタンフォームは容易に着火し、急激に燃焼拡大します。難燃化された硬質ウレタンフォームは着火しますが早期に自己消炎し、延焼も拡大しないと言われています。特に建築基準法不燃認定品は燃焼も局所的で極めて短時間で消炎するとされています。一般的な硬質ウレタンフォームのみが着火物となりえると言われています。
接炎せずに高い外部放熱を受ける場合、建築基準法不燃材料認定品以外は全面から発火すると言われています。硬質ウレタンフォームは、火災最盛期の室内において接炎していなくても突然発火し、延焼するとされています。
ポイント
- 日本の外断熱湿式工法で用いられている不燃認定品硬質ウレタンフォームは、接炎すれば着火します。
日本の乾式外断熱で用いられているサンドイッチパネルの燃焼性状
局所加熱をサンドイッチパネルに加えた場合、引火点・発火点を超える温度においても有炎燃焼せず、熱を受けた部分がガス化し、空洞になります。サンドイッチパネルが広範囲に熱を受けた場合は、受熱面のパネルがはく離する可能性があります。
接炎しなければサンドイッチパネル内の硬質ウレタンフォームはガス化します。しかし、継ぎ目や隙間から接炎すれば着火するのではないかと思います。
ポイント
- 金属サンドイッチパネルの端部の歪みやズレで空気層に炎が入ってしまうと燃えます。
- 金属サンドイッチパネルの端部の加工は難しいです。
- 窓周りの外断熱ディテール設計は、高度な設計知識と開口部防火設計が必要とされるので、マンション管理会社が提案する大規模修繕では難しいです。
- 室内から開口部に向かって炎が噴出する燃え広がり火災に外断熱で防火設計をするのは難しいです。
- 外断熱の改修大規模修繕は、本来 設計が難しいです。
- 設計者は、雨仕舞いをまず注意しますが、耐火性能は耐火認定された製品であることを信頼して端部の耐火設計は日本には設計基準がないので注意しないのが普通だと思います。確認申請時、防火地域等で通気層のファイアストップの指導はありますが、開口部の燃え広がりについては指導がないので合法として施工できてしまいます。
バックラップの設計基準がない日本
外断熱の防火設計において、空気層のファイアストップと断熱材のバックラップがとても重要で端部の処理が設計・施工ともに難しいです。
日本の外断熱にはバックラップの設計基準がないので、バックラップのない外断熱が施工されていると推察されます。
内断熱の断熱補強が必要になる箇所が増えたとしても、外断熱の切れ目による熱橋で断熱性能が下がったとしても、開口部・スリーブ詳細設計おいて、防火設計を優先させなければならないと考えます。
外断熱は日本の木造住宅で普及しています。
日本では、外断熱のマンションは少ないです。しかし、木造住宅では、不燃硬質ウレタンフォームなど発泡系断熱材を用いた外張り断熱工法は、一般的な施工法で多くの工務店・ハウスメーカーが省エネ住宅をアピールするため採用しています。グラスウールなど無機系断熱材を使う例もありますが少数の事例です。
工事の依頼先に注意が必要です。
外断熱でも、日本では新築工事の場合、耐火基準をクリアしたものしか建築することは許されません。しかし、日本では、主要構造部に手を加えない外壁の大規模修繕では、建築主事の確認申請・完了検査を受けないで、外断熱の施工が可能です。お施主様やマンション管理組合様が依頼先としてマンション管理会社や施工会社に一任することになった場合、設計仕様のリスクコントロールは専門家でないお施主様や管理組合様には難しいです。
不動産バリューアップ工事の依頼先は、専業設計事務所に依頼するのが吉
外壁の塗り替え・不具合個所の修繕など大規模修繕によるマンション改修では、マンション管理会社が主導して修繕が行われますが、高度な設計技術と施工を必要とする外断熱仕様・耐震補強改修・増築・用途変更コンバージョンなど不動産バリューアップは、専業設計事務所に依頼することが必要です。
そして、設計者の高度な知見に基づいた第三者の目で、施工者の技術力を見極めてもらい施工者を選定したほうが良いと思います。安易に監理する知見のないマンション管理会社の提案を受け入れて、施工会社の技術グレードも見ずに金額重視で施工会社を選定・依頼するのは避けたほうが良いと思います。
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